や行

やかん
物知りを自認するご隠居のところへ、八っつあん・熊さんがたずねて来て、いろいろと聞く「根問いもの」というポピュラーな古典落語の小品です。とはいえ、本当に物知りならよいのですが、「自認」ときては…。
たとえば、「嫁入り」は、来る嫁に目が二つ、迎える婿(むこ)に目が二つ、合わせて「四目(よめ)入り」。「奥さん」は、女はみな奥座敷でお産をするから「奥産」。そして魚の名前の由来やら適当なことを言っているうちに、「薬鑵(やかん)はなぜヤカンという?」と聞かれる。
そこでご隠居「むかしは『水わかし』といったが、まだ鉄砲のないころの戦場で、急な敵襲におどろいた若武者が、鎧(よろい)は身に付けたが兜(かぶと)が見当たらない。そこで近くにあった水わかしをかぶって出陣した。飛んできた矢が…」とたわいない超ナンセンスに終始します。芸界で「しったかぶりをすること」を「やかん」といったりするのは、この一席から生まれた用語だそうな。
CDならPONY CANYONから正蔵改め林家彦六名演集(四)PCCG−00024(他に真景塁ケ淵・普段の袴・首提灯を収録)などで、お楽しみ下さい。
演者にとっても楽しみながらできる落語で、桃家へい曰く「ご隠居が苦しまぎれに答えるのに、常に偉そうで、満足気なところが面白いし気に入っている」と。ううむ、「やかん」の素質がありそうなコメント…。




根問い:
 
根本まで問いただすこと。どこまでも問いただすこと。

奥さん:

昔の邸宅に「大奥」ということばもあるように、奥に住むのは女性であり、もと身分が高い人の妻をいった「奥方」そして「奥様」がしだいに一般にも広く用いられるようになったもので、これはあながちでたらめでもない所があります。が、かように語源というものは俗説も多く、学問的な定説をみるには困難がひかえているようです。
最近の好著に講談社『暮らしのことば語源辞典』山口佳紀編がありますが、ちょっと大部(たいぶ)。角川文庫ソフィアから、私ども國學院大學の中村幸弘先生著の『難読語の由来』『読みもの日本語辞典』というハンディなものもあることを添えさせていただきます。
学生時代、講義の合間に「時計」はどうして「時」が「と」と読むのかなど、お話いただいたのを思い出します。興味のある方はどうぞ。
 
桃家へい
 
五代目花廼家小袖を襲名。第38回渋三落語会で「やかん」を口演。

寄合酒/ん廻し
兄貴分の誕生日の祝いに酒と 肴(さかな)をもらい、あるいは雨などのため出職〔 左官 、大工などの職人〕の連中が休みで集まり酒を飲む 算段をするが、酒の肴を各自集めてきたものの料理する段でメチャメチャになってしまうという滑稽な噺。後半は、ん尽くしの言葉遊びが置かれ、上方でも『田楽食い』『ん廻し』の題名で演じられるとか。ここでの飯島友治編『古典落語』第二期第四巻(筑摩書房)からその件(くだり)を簡単に、

料理がメチャメチャになったあと、 味噌田楽の差入れがある。おでんでんがくといって運のつくように食うものだから、んの字を一つ言ったら一本、二つなら二本とんの数だけ食うことにしようと相談がまとまり、さて「みかん」と言ったのが一本、「みかんきんかんわしゃ好かん」で四本、「本山(ほんざん)坊(ぼん)さん看板カン」で七本とくるが、やがて「千年前新禅院の門前の玄関に、人間半面半身疝気いんきん金看板銀看板、金看板根元(こんげん)万金丹、銀看板根元反魂丹、瓢箪看板灸点(きゅうてん)」と二度くり返して九十本食おうという豪傑が現れる。かと思うと、「おい、算盤を持ちなよ。『じゃァーん』と一本、『じゃんじゃんじゃーん』と三本、…」と半鐘の音を真似て際限なく食う魂胆の男。そのうち…

酒の肴を持ってこいと言われれば、あれこれ悪知恵を働かせて 塩物屋や乾物屋等からせしめてくるは、料理しろと言われれば、せっかくせしめた数の子を煮てしまうなどの滑稽の連続とあり、どこで切っても一応のサゲがつけられるし、にぎやかで楽しい噺なので演じてみるのもいいのでは。が、市販のCDなどがなかなか…知ってる人は教えてください。


肴: 酒をおいしく味わうために食べるもの。
左官: かべをぬる職人。
算段: 手段を考えること。
田楽(でんがく): 豆腐・ナス・魚などを串に刺して火にあぶり、味噌を塗ってさらに焼いた料理。
塩物屋・乾物屋: 乾物(かんぶつ)の中でも特に塩干物〔干鱈、塩鮭、鯵の干物など〕を中心に商っている店を塩物屋といった。乾物屋のほうは、米以外の穀類や麩、鰹節、海苔それに塩物も扱っていた。


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